企業のEC担当者・海外事業責任者の皆様は、越境ECにおける特定商取引法や海外向けサイトの表記について、次のようなお悩みや疑問をお持ちではないでしょうか。
越境ECにも日本の特定商取引法は適用されますか?
販売対象が海外の消費者のみである場合、日本の特定商取引法(特商法)は適用されません。もっとも、特商法が適用されないなら、会社情報や返品ルールなどは書かなくていいのか?というと、実務上はそういうわけにはいきません。決済システムやプラットフォームの審査、現地(販売先)の法律への準拠等のために、記載が必要です。
「特定商取引法に基づく表記」を英語へ翻訳すれば十分ですか?
日本国内向けの表記をそのまま外国語へ翻訳するだけでは、十分とは限りません。販売先となる国や地域には、日本とは異なる消費者保護法、返品・返金制度、事業者情報の開示義務、個人情報保護規制などが存在します。例えば、国や地域によっては、Legal NoticeやImpressumといった独自の法的表示が求められる場合もあります。そのため、単なる翻訳ではなく、販売対象国の法制度に合わせて表記内容をローカライズする必要があります。
海外向けECサイトでは、どのようなページを整備すべきですか?
越境ECサイトでは、特定商取引法に基づく表記に加えて、Terms of Service(利用規約)、Return Policy(返品・返金規定)、Privacy Policy(プライバシーポリシー)などを整備することが重要です。利用規約では注文や配送、関税、免責、準拠法などを定め、返品規定では返品期限や費用負担、返金方法を明確にします。また、GDPRやCCPAなどの個人情報保護規制を踏まえ、取得する顧客情報や利用目的についても説明する必要があります。
日本法を適用すると定めれば、海外のルールには対応しなくてもよいですか?
日本法を準拠法とし、日本国内の裁判所を管轄裁判所として定めても、販売先の国における消費者保護法などの強行規定まで排除できるとは限りません。また、Amazon米国やeBayなどのECモールへ出店する場合には、自社の表記や規約だけでなく、モール独自の返品・返金ルールや販売ポリシーにも従う必要があります。自社サイトの表示内容とモール規約にズレがあると、購入者とのトラブルやアカウント上の問題につながる可能性があります。
本記事では、越境ECに日本の特定商取引法が適用される場合の考え方を整理したうえで、海外向けECサイトに必要な表示、アメリカ・ヨーロッパ等の消費者保護ルール、利用規約・返品規定・プライバシーポリシーの整備、準拠法やECモール利用時の法的注意点について、越境ECに詳しい企業法務を扱う弁護士の視点からわかりやすく解説します。
目次
1. はじめに:越境ECサイトにおける「特定商取引法」の基本とよくある誤解
当社では、越境EC事業を開始するために、ウェブサイトを準備中です。海外の消費者だけを対象にした越境ECサイトであれば、日本の特定商取引法に基づく表記は必要ないのでしょうか。
販売対象が海外の消費者のみである場合、日本の特定商取引法(特商法)は適用されません。もっとも、特商法が適用されないなら、会社情報や返品ルールなどは書かなくていいのか?というと、実務上はそういうわけにはいきません。決済システムやプラットフォームの審査、現地(販売先)の法律への準拠等のために、記載が必要です。また、日本の表記を英訳するだけでは、販売先の国や地域の消費者保護ルールに十分対応できない可能性があります。
越境ECでは、海外の消費者を対象としていることを理由に、「日本の特定商取引法は関係ない」と考えてしまう事業者も少なくありません。しかし、ShopifyなどのECプラットフォームや、Stripe、PayPal、各種クレジットカードの決済代行サービスを利用する場合、特商法の表記(またはそれに準ずる販売元情報やポリシーの明記)がないと、アカウント審査に通らないケースがほとんどです。マネーロンダリングや詐欺を防ぐため、運営実態の透明性が世界共通で求められます。
また、日本の特商法が適用されない代わりに、「販売先(ターゲット国)の消費者保護法」が適用されることになります。
たとえば、EU圏へ販売する場合はGDPR(一般データ保護規則)への対応や、EUの厳格な消費者保護ルール(14日間の無条件キャンセル権など)に準拠したポリシー表記を求められます。アメリカ向けであれば、各州のプライバシー法規への対応が必要です。日本語の表記をそのまま外国語へ翻訳しただけでは、現地の法制度や商習慣に適合しない可能性があります。
そのため、越境ECサイトでは、販売対象国の消費者保護ルールやECモールの規約も確認し、利用規約、返品ポリシー、プライバシーポリシーなどを一体的に整備することが重要です。





