目次
1. はじめに
日本企業の海外展開がますます加速している中、2020年には新たな支援策が導入されました。「新規輸出1万者支援プログラム」は、日本企業の海外進出を促進するため、官民連携でスタートしました。このプログラムは、越境ECや海外展開に取り組む企業を総合的に支援する取り組みであり、補助金や助成金、さらには各種情報提供や助言など、一気通貫での支援が特徴です。
このプログラムの導入により、多くの企業が新たな海外市場への進出を模索しています。特に、越境ECを通じた海外販路の開拓に注力する企業が増えており、中国や米国をはじめとする海外市場での販売拡大が期待されています。
また、COVID-19の世界的な流行により、オンラインでのビジネスがますます重要視される中、越境ECは、商品やサービスを物理的な制約を超えて世界中に提供する手段として、ますます注目を集めています。特に、日本の高品質な製品やサービスに対する海外需要は増加傾向にあり、越境ECを通じた販売が新たな成長の源泉となっています。
このように、新規輸出1万者支援プログラムの導入やCOVID-19の影響を受けながらも、日本企業の海外展開は着実に進展しています。今後も、さらなる国際市場での競争力強化や販売拡大が期待される中、越境ECを活用した海外進出が一層注目されることでしょう。
この記事では、越境EC事業における補助金の活用方法や申請の手順、注意点について解説します。日本企業が補助金を活用して越境ECを展開する上で知っておくべき情報や、直面する可能性のある課題について見ていきましょう。
2. 越境EC事業における補助金活用のメリット
越境EC事業における補助金の活用は、多くのメリットをもたらします。まず第一に、売上拡大の可能性が高まります。特に中国や米国などの巨大市場において、日本や他国の事業者からの越境EC購入額は拡大傾向にあります。これは、海外の消費者が日本の製品やサービスに高い関心を寄せていることを示しています。また、逆に日本の消費者も海外の製品に関心を持つ傾向にあります。こうした流れにより、越境ECを通じた取引が拡大し、売上が増加する可能性が高まります。
さらに、越境ECを活用することで、海外進出にかかるコストを抑えることができます。通常の実店舗を構える場合と比較して、ECを利用した海外展開は低コストで行えるため、中小企業や新興企業にとっても手軽な方法と言えます。物理的な店舗の設置や運営にかかる費用を削減できるだけでなく、倉庫や在庫の確保、従業員の配置などのコストも削減することができます。
これらのメリットを活かすためには、効果的な補助金の活用が重要です。さまざまな補助金制度をうまく活用することで、越境EC事業の立ち上げや拡大を支援し、国際市場での競争力を向上させることができます。また、補助金を活用することで、新たな市場への投資やマーケティング戦略の強化に資金を充てることができ、事業の成長を加速させることが期待できます。
3. 越境ECで活用できる補助金
越境ECで活用できる補助金は、事業の立ち上げや成長を支援するための重要な資金源です。以下に、代表的な補助金制度を紹介します。
(1) ものづくり補助金
ものづくり補助金は、製造業における生産性向上や技術革新を促進することを目的としています。越境EC事業においては、製品の開発や生産プロセスの改善に資金を投入することで、品質向上やコスト削減を図ることができます。製品の国際競争力を高めるために、ものづくり補助金を活用することが有益です。
なお、輸出に関心のある事業者は、「新規輸出1万者支援プログラム」へ登録しておくことで、ものづくり補助金申請の際に加点対象となります。この登録は、ジェトロのポータルのサイトから行うことができます。登録者には、ジェトロの専門家から個別にカウンセリングを受ける機会が提供され、各種支援策の紹介を受けることができます。また、登録者には海外展開に関する最新情報がメルマガとして配信されるため、これを活用することで常に最新の情報を入手し、戦略的な展開を図ることが可能です。
参照:
新規輸出1万者支援プログラムポータルサイト(JETRO): https://www.jetro.go.jp/ichiman-export.html
ものづくり補助金総合サイト: https://portal.monodukuri-hojo.jp/index.html
(2) 小規模事業者持続化補助金(一般型)
小規模事業者持続化補助金は、小規模事業者や特定非営利活動法人が直面する制度変更(物価高騰、賃上げ、インボイス制度の導入など)に対応するために設けられました。この補助金は、販路開拓や業務効率化(生産性向上)に必要な経費の一部を補助し、地域の雇用や産業を支える小規模事業者の生産性向上と持続的発展を目指しています。越境EC事業においては、事業の安定的な運営や拡大に向けたインフラ整備、人材育成、マーケティング活動などに資金を充てることが可能です。持続可能な越境ECビジネスを展開するための貴重な支援となります。
申請から交付までには審査があり、不採択になる場合もあります。補助事業の実施には自己負担が必要であり、事業完了後に精算払いとなります。具体的な受付スケジュールや申請方法については、ガイドブックや公募要領を参照してください。
補助金の不正受給等の不正行為があった場合には、補助金等適正化法に基づき厳正に対処されます。不正受給が発覚した場合、罰金や懲役などの法的処分が科されることがあります。
参照:商工会議所地区 小規模事業者持続化補助金(一般型):
https://r3.jizokukahojokin.info/index.php
小規模事業者持続化補助金<一般型>ガイドブック 第8版(2023年6月14日)
全国商工会連合会: https://r3.jizokukahojokin.info/doc/r3i_guidebook_ver8.pdf
(3) 事業再構築補助金
事業再構築補助金は、コロナ禍によって影響を受けた事業者と、将来に向けて事業を再構築したい事業者を対象にしています。具体的には、新しい市場への進出、事業や業種の変更、事業の再編成、国内市場への回帰、地域のサプライチェーンの強化などの挑戦を支援します。越境EC事業においては、市場環境の変化や競争の激化に柔軟に対応するための資金を提供します。例えば、新たな市場への展開や商品・サービスの改良、デジタル化への対応などに活用できるでしょう。
申請手順は、まず公募要領を確認し、必要な「GビズID」を取得します。その後、電子申請システムを利用して申請書類を提出します。審査を経て交付候補者が決定されますと、交付申請を行い、設備投資や事業実施を進めます。事業実施後は実績報告書を提出し、3~5年間にわたり事業化状況を報告する必要があります。
具体的な申請方法については、公募要領や「事業再構築指針」を参照してください。
参照:
事業再構築補助金: https://jigyou-saikouchiku.go.jp/
事業再構築補助金 【サプライチェーン強靱化枠】公募要領 (第12回)1.4版
令和6年7月 事業再構築補助金事務局: https://jigyou-saikouchiku.go.jp/pdf/koubo_sc.pdf
事業再構築指針の手引き 4.0版 令和6年4月(経済産業省 中小企業庁):
https://jigyou-saikouchiku.go.jp/pdf/download/shishin_tebiki012.pdf
(4) 各都道府県ごとの補助金制度
各都道府県には、独自の補助金制度が存在しています。これらの補助金の多くは、国ではなく地方自治体が提供しており、その中には越境ECに関連するものもあります。
越境ECを始める企業は、所在地の自治体で利用できる補助金を探すために、都道府県庁のウェブサイトのページなどを確認することが重要です。また、それぞれの補助金の申請方法も確認しておきましょう。
参照:補助金ポータル: https://hojyokin-portal.jp/columns/prefecture_list
(5) IT導入補助金は2024年から対象外に
IT導入補助金は、中小企業や小規模事業者がさまざまな経営課題を解決するためのITツール導入を支援する補助金です。以下の5つの枠から自身の目的に合った補助金を申請できます:
① 通常枠: 自社の課題に合ったITツールを導入して業務効率化や売上アップをサポートします。
② インボイス枠(インボイス対応類型): インボイス制度に対応した会計ソフト、受発注ソフト、決済ソフト、PC・ハードウェアの導入を支援します。
③ インボイス枠(電子取引類型): インボイス制度に対応した受発注システムを商流単位で導入する企業を支援します。
④ セキュリティ対策推進枠: サイバー攻撃リスクに対処するためのセキュリティ対策を支援します。
⑤ 複数社連携IT導入枠: サプライチェーンや商業集積地に属する中小企業が連携してITツールを導入し、生産性向上を図る取り組みを支援します。これにより、地域DXの推進や生産性の向上が促進されます。
ただし、2024年からは越境ECの構築費が補助対象外となりました。インボイス制度に対応した「会計」「受発注」「決済」機能を有するソフトウェアの導入はECサイトでは対象外になります。これらは業務上で取引先と受発注を行う際に利用する組み込みシステム等と想定されているため、越境ECの構築では利用できません。
参照:IT導入補助金2024 令和5年度補正サービス等生産性向上IT導入支援事業
https://it-shien.smrj.go.jp/
4. 越境ECで補助金を活用する際のポイント
越境ECで補助金を活用する際には、申請の流れを正確に把握し、スムーズに手続きを進めることが重要です。以下に、一般的な申請の流れを示します。
(1) 制度の把握:
まずは、越境ECで利用可能な補助金制度を十分に把握することが重要です。公的機関や地方自治体のウェブサイト、商工会議所などの情報源を活用し、各補助金制度の概要や条件を調査します。
(2) 準備:
補助金の申請に必要な書類や情報を準備します。これには、事業計画書、財務諸表、業務内容の説明、必要に応じて提出が求められる書類などが含まれます。また、申請に必要な会社の登記簿謄本や法人設立登記簿謄本なども用意しておきます。
(3) 申請:
申請手続きは、補助金を提供する公的機関や地方自治体の指示に従って行います。申請書類を提出し、必要に応じてオンラインでの申請や郵送による提出を行います。申請書類の内容は、各補助金制度によって異なるため、注意深く記入する必要があります。
(4) 審査:
申請書類の審査が行われます。審査では、事業計画の適切性や財務状況、補助金の利用目的などが評価されます。また、必要に応じて面談や調査が行われる場合もあります。
(5) 承認:
審査が通過した場合、補助金の承認がされます。承認後には、補助金の利用条件や支給額などが通知されます。必要に応じて、支給のための手続きや契約書の締結が行われます。
(6) 利用:
補助金の支給を受けたら、事業計画に沿って資金を活用します。資金の使途に関する報告や記録の提出が求められる場合もありますので、これに従って適切に資金を管理・活用します。
(7) 確認:
補助金の支給後も、定期的に事業の進捗や成果を報告することが求められる場合があります。公的機関や地方自治体との連絡を密にし、補助金の利用状況や成果について定期的に確認し、適切な報告を行います。
以上が、越境ECで補助金活用時に検討すべき一般的な申請の流れです。各段階での細かな手続きや条件には注意が必要ですが、これらのステップを順守することで、効果的に補助金を活用し、越境EC事業の成長を支援することができます。
さらに、申請の際には時間に余裕を持つことが推奨されます。特に審査や書類の提出には時間がかかる場合がありますので、計画的に申請を進めることが重要です。また、申請前には専門家やアドバイザーに相談することも有益です。彼らは補助金申請のプロセスを熟知しており、適切な支援と助言を提供してくれます。また、補助金の活用にあたっては、補助金の使用に関する正確な記録を保持し、公的機関や地方自治体からの監査に対応できるよう準備を行うことが必要です。このような管理は、将来的な補助金の継続利用や追加資金の獲得にも繋がる可能性があります。
5. 補助金活用の注意点
補助金活用には、様々な注意点が存在します。以下に主なポイントを解説します。
申請書類の作成と手続き
補助金を活用するには、事業計画書や財務諸表の作成、必要な書類の収集など、細かな準備作業が必要です。これらの手続きには多くの労力と時間がかかることを覚えておきましょう。
要件の確認
申請書類の内容が補助金制度の要件に十分に沿っていない場合、審査で対象外となる可能性があります。申請前に要件を確認し、不備がないように注意しましょう。
手続きの準備
事前準備として、新規ドメインの取得などが必要な場合もありますが、これらの作業は申請後に行う必要があります。手続きの順序を誤ると問題が生じる可能性がありますので、承認後に適切な順序で進めるよう注意が必要です。
スケジュールの把握
補助金の支給までの具体的なスケジュールを把握することも肝要です。各補助金制度には異なる申請期限や審査期間がありますので、これらを把握して申請計画を立てることが重要となります。特に大規模な補助金プログラムでは、審査に時間がかかることがありますので、余裕を持ったスケジュール管理が必要です。
制度の変更
補助金制度は年度ごとに内容が変更されることがあります。申請時には最新の情報を入手し、制度の変更点を確認することが重要です。変更点を把握することで、より適切な申請が可能となります。
運用と報告
補助金を活用した後も、運用や報告などの手続きがあります。事業計画に補助金の運用や成果の報告を含めることが重要です。補助金を活用した事業の成果や運用状況を管理し、適切に報告することが求められます。
これらの注意点を踏まえ、補助金を効果的に活用し、越境EC事業の成長を支援することが重要です。
6. 海外進出・海外展開における影響
越境ECを活用した海外進出は、日本企業にとって大きなチャンスとなります。海外市場での販売拡大や新たな顧客層の獲得、さらには国際競争力の向上など、多くのメリットが期待されます。補助金を活用することで、海外展開にかかる費用を抑えつつ、事業拡大を実現することが可能です。ただし、補助金の申請や活用には慎重な準備と計画が必要です。要件に沿った申請書類の作成や手続き、最新の制度内容の把握など、細部にわたる注意が求められます。また、補助金を受け取った後も、運用や報告などの手続きがありますので、これらを見落とさないようにしましょう。
海外進出を成功させるためには、進出先の地域の文化や法律、市場のニーズなどを理解し、戦略的に展開することが不可欠です。慎重な計画と確実な実行によって、越境ECを通じた海外進出の成功率は飛躍的に高まるでしょう。