目次
1.東南アジアにおいて越境ECが注目されている理由

近年、「越境EC」は日本を含む多くの国の事業者にとって重要な成長戦略の一つとなっており、なかでも注目を集めているのが「東南アジア」市場です。2020年以降、ASEAN諸国(シンガポール、マレーシア、インドネシア、タイ、ベトナム、フィリピンなど)を中心としたこの地域では、経済成長やデジタル化の進展を背景に、オンラインショッピングの需要が急速に拡大しています。特に、モバイル端末の普及や若年層の消費意欲の高さが、越境ECビジネスにとって大きな追い風となっているのです。
急成長する市場と高い消費ポテンシャル
東南アジアの越境EC市場が注目される最大の理由は、その市場規模の急拡大にあります。Google、Temasek、Bain & Companyの調査「e-Conomy: SEA 2023」によると、東南アジアのデジタル経済は2025年までに約3,000億ドル規模に達するとされており、そのうち大きな割合をEC市場が占めています。人口が6億人を超えるこの地域では、中間所得層の拡大や都市化の進行とともに、オンラインでの買い物が日常的になってきています。
加えて、近年はインフレ率の上昇により、現地の物価全体が高騰している傾向も見られます。これは生活コストの増加を意味する一方で、海外製品に対する「価格の受容度」が高まりつつあることも示しています。結果として、日本企業や個人セラーが提供する高品質な商品でも、従来より高い価格で販売しても受け入れられやすくなっているのです。こうした経済環境の変化は、収益性の面でも越境ECに取り組む大きなメリットといえるでしょう。
また、平均年齢が30歳未満という若い人口構成も特徴であり、スマートフォンを使いこなすデジタルネイティブ世代が、積極的に海外製品を検索し購入する傾向にあります。これにより、日本企業にとっても、東南アジアは日本品質の商品を求める新たな消費者層との接点を作る理想的なマーケットとなっています。
日本製品に対する高い信頼とニーズ
東南アジアでは、Made in Japanへの信頼が根強く、特に「品質の高さ」「安全性」「信頼性」が購買動機となることが多いです。化粧品、健康食品、ベビー用品、家庭用電化製品、アパレルといった分野では、日本製というだけで一定の競争力を持つ場合もあります。
また、アニメ・漫画・ゲームなどの日本のポップカルチャーに親しんでいる若年層にとって、日本製の商品や関連グッズは単なる消費財を超えた「ライフスタイルの一部」として位置づけられており、ブランドストーリーや世界観が購入の決め手となることも少なくありません。
越境ECを支える物流と決済インフラの整備
かつては東南アジアでの越境ECにおいて、最大の課題とされていたのが物流インフラの不備や国際配送のコストとリスクでした。しかし現在では、大手ECプラットフォームが、ローカル物流ネットワークと提携し、安価かつ迅速な配送サービスを提供するようになっています。これにより、個人や中小企業でも比較的低コストで現地配送が可能となり、参入障壁が大きく下がりました。
さらに、決済面でも各国のローカルモバイル決済(例:インドネシアのOVO、フィリピンのGCashなど)に対応する決済代行サービスやプラットフォームが普及しており、日本にいながらでも現地通貨での支払いをスムーズに受け取ることができる環境が整っています。
2.東南アジアで越境EC事業を始めるには

東南アジア市場は、越境ECビジネスの新たなフロンティアとして大きな注目を集めています。多様な文化と急成長する経済環境、そしてデジタルインフラの発展により、個人事業主から中小企業まで幅広いプレイヤーが参入を始めています。たとえば、ある日本のアパレルブランドがShopeeを通じてタイ市場に進出し、現地向けのサイズ展開とプロモーションを工夫することで、初月から安定した売上を実現した事例もあります。では、実際に東南アジアで越境EC事業をスタートするには、どのような準備やステップが必要になるのでしょうか?ここではその基本的な流れと、成功するために欠かせない要素を解説します。
市場調査とターゲット国の選定
最初に行うべきは、市場調査と進出先の国選定です。東南アジアと一口に言っても、国ごとに消費者ニーズや購買行動、人気商品、支払い手段、法規制などは大きく異なります。たとえば、インドネシアやフィリピンは人口が多く、スマートフォン経由でのEC利用が盛んな一方で、ベトナムやタイでは食品や美容商品の越境需要が高い傾向があります。
各国の政府統計、専門機関が発表している市場規模やEC利用動向に関する資料などを活用し、自社の商品やサービスがどの国で「売れ」そうかを客観的に判断することが重要です。
プラットフォーム選定と出店準備
次に、商品を販売するプラットフォームの選定を行います。東南アジアでは、以下で紹介する現地密着型ECモールが強い影響力を持っています。これらのプラットフォームは、現地言語への対応、ローカル決済、物流支援などが充実しており、初めて越境ECを行う事業者にも適しています。
たとえばShopeeでは、越境出店用の「Shopee Global Selling」プログラムを活用することで、現地法人を設立せずに日本からでも出店が可能です。出店後は、商品登録、価格設定、配送方法の設定、プロモーションページの作成といった一連の流れを整備します。
商品や配送体制の整備
越境ECでは、商品の選定とその配送体制が売上を左右します。特に東南アジアでは、「到着が早い」「送料が安い」「梱包が丁寧」といった点がリピーター獲得につながる重要な要素です。
配送については、以下のいずれかの方式を選ぶことになります:
・自社発送(日本から個別に配送する)
・ローカル倉庫活用(現地フルフィルメントセンターに在庫を置く)
・ドロップシッピング・プリントオンデマンド(受注生産+委託配送)
決済方法と為替リスクへの対応
東南アジアでは、各国で好まれる決済方法が異なる点にも注意が必要です。クレジットカードだけでなく、Eウォレット(GrabPay、OVO、GCash)、銀行振込、代金引換など多様な手段が利用されており、それらに対応できる仕組みが重要です。
Shopify PaymentsやKOMOJU、Stripeなどの決済代行サービスを活用することで、為替の自動換算や現地通貨の受け取りも可能になります。利益管理や税務申告の観点からも、為替リスクと受取手数料を含めた料金設計を事前にシミュレーションしておくと安心です。
税務・規制・関税への備え
国際取引で避けて通れないのが輸出入に関する規制や税務の問題です。たとえば、医薬品や食品、化粧品のように販売国ごとに認可や表示義務が異なる商品は、事前の調査が不可欠です。また、通関時に関税が発生する可能性もあるため、販売価格に含めるのか、顧客に別途請求するのかを明示する必要があります。
場合によっては、現地の法律事務所や貿易コンサルタントに相談しながら、必要書類の準備や販売可能商品の確認を進めると良いでしょう。
3.東南アジアにおける越境ECで成功するためのポイント

東南アジア市場は、経済成長とインターネット普及の加速により、今や越境ECの有望市場として世界中の企業・個人セラーから注目を集めています。しかし、市場の可能性が大きい一方で、ただ商品を出品するだけでは成果につながらないのが現実です。文化・言語・購買習慣が国ごとに大きく異なる東南アジアにおいて、成功するためには戦略的なアプローチが必要です。以下では、越境EC事業者が東南アジア市場で成果を上げるために押さえておきたい具体的なポイントを解説します。
現地ニーズを捉えた商品選定
成功の第一歩は、「何を売るか」の選定にあります。東南アジアでは、日本製品に対する信頼が高く、とくに以下のような商品カテゴリに人気があります:
・美容・スキンケア用品(例:フェイスマスク、化粧水)
・健康食品・サプリメント
・キッチン・生活雑貨(例:包丁、水筒、保存容器)
・ベビー・子ども用品(例:肌着、おもちゃ)
・アニメ・キャラクター関連グッズ
ただし、国によって好まれる色やデザイン、使い方の習慣が異なるため、ターゲット国のトレンドや消費者レビューを調査したうえで、商品企画を最適化することが重要です。たとえば、タイでは「美白」に特化した化粧品が人気ですが、インドネシアでは「オーガニック・自然派」志向の商品が好まれる傾向があります。
ローカライズ対応と言語サポート
言語の壁は、越境ECにおいて最も大きな障壁のひとつです。英語が通じる国もありますが、マレー語、タイ語、ベトナム語、インドネシア語など、それぞれの言語で商品ページ・FAQ・問い合わせ対応を準備することで、信頼性が高まり、購入率も大きく向上します。
特にShopeeやLazadaといった現地プラットフォームでは、現地語での記載が推奨または必須とされる場合があるため、翻訳サービスやローカルパートナーの協力を得るのが効果的です。自社サイトを運営する場合でも、最低限、商品タイトル・説明文・返品ポリシーなどの多言語対応を進める必要があります。
スマートフォンを意識した販売戦略
東南アジアでは、EC利用の大部分がスマートフォン経由で行われています。特に若年層のユーザーは、SNSアプリ(Instagram、TikTok、Facebookなど)で商品を見つけ、そのままECモールや公式サイトで購入する流れが一般的です。
そのためモバイルファーストでのサイト設計や、SNSと連携したプロモーション施策が不可欠です。たとえば、TikTokショッピング機能を活用した動画コンテンツ、Shopee内のライブ配信セールなどが、実際に効果を上げている手法として知られています。
また、レビューや評価の信頼性も購入を左右するため、顧客満足度を高めてポジティブな口コミを集める仕組みも重要です。
競争力ある価格と柔軟なプロモーション
東南アジアの消費者は価格に敏感な傾向が強く、同じ商品でも送料、割引率、支払い方法の違いで購入の可否が左右されることがあります。そのため、現地の通貨・価格感覚に合わせた価格設定と、期間限定セールやクーポン配布などの販促施策を積極的に取り入れましょう。
また、プラットフォームによっては、大規模セールが定期開催されており、このタイミングに合わせてプロモーションを仕掛けることで大きな売上を見込むことができます。
顧客対応とアフターサービスの充実
EC利用者の多くが「販売後の対応」を重視する傾向があります。たとえば、配送遅延や破損時のサポート、返品への柔軟な対応などが高く評価され、リピート率やレビュー評価に直結します。
時差や言語の違いを考慮しながら、できるだけ迅速で丁寧な顧客対応を心がけ、FAQやチャットボットを活用するなどして、顧客との接点を保つことが大切です。配送に関しても、追跡番号の提供や、現地配送業者との連携強化が信頼性向上につながります。
4.東南アジアで人気の越境ECプラットフォーム

東南アジアは、急速に成長するEC市場の一つとして、個人・法人問わず多くの事業者が注目しています。特に越境ECにおいては、各国のユーザーに広くリーチできるプラットフォーム選びが成功の鍵を握ります。ここでは、東南アジアで人気の越境ECプラットフォームを紹介しながら、それぞれの特徴や利用時のポイントを解説します。
1.Shopee(ショッピー)
Shopeeはシンガポール発のECプラットフォームで、東南アジア・台湾を中心に強い存在感を持っています。マレーシア、タイ、インドネシア、ベトナム、フィリピンなど主要6カ国に展開しており、それぞれの国の言語と通貨に対応しています。
特徴:
・モバイルアプリの使いやすさに定評があり、スマートフォン利用者が中心の東南アジア市場と非常に相性が良い。
・セールイベントやライブ配信機能(Shopee Live)を活用することで、エンゲージメントを高めやすい。
・「Shopee Global Selling」機能により、日本を含む海外からの出店が比較的容易で、現地倉庫への配送やフルフィルメントサービスも整備されている。
Shopeeは特に、商品数を増やして露出を高めたい個人事業主やスモールビジネスにとっては、費用対効果の高い選択肢といえるでしょう。
2.Lazada(ラザダ)
Lazadaはアリババグループ傘下のプラットフォームで、Shopeeと並ぶ東南アジア最大級のECサイトです。こちらも東南アジア6カ国に展開しており、特に中価格帯~高価格帯の商品に強い傾向があります。
特徴:
・Alipay(アリペイ)を活用した決済インフラや、アリババの物流ノウハウを活かした配送ネットワークが魅力。
・セールスやマーケティング支援ツールが豊富で、広告運用やターゲティング機能が整っている。
・「Lazada Global Selling」により、日本企業・個人が海外から商品を販売するためのサポートも強化されている。
ブランディング重視の出品者や、ブランド力のある商材を海外向けに展開したい企業・個人に向いています。
3.Qoo10(キューテン)
Qoo10は、もともと日本でも知名度の高いECサイトで、韓国資本を背景にシンガポールやマレーシア市場でも強い影響力を持っています。とくに日本製品に対する信頼感が高い市場では根強い人気を誇ります。
特徴:
・化粧品・サプリメント・雑貨などのカテゴリで、日本商品を中心とした販路がすでに確立されている。
・クーポンやタイムセールなどのプロモーション機能が豊富。
・英語での出品・運用も比較的対応しやすく、初めての越境ECにも向いている。
Qoo10は、日本製品に対するニーズが高い層へのアプローチを重視したい場合に特に有効です。
4.TikTok Shop(ティックトック・ショップ)
TikTokは若年層を中心に圧倒的な人気を誇るSNSであり、近年では「TikTok Shop」というEC機能を東南アジア諸国で本格展開しています。動画から直接商品を購入できる点が画期的で、新しい世代の消費行動に対応した販売チャネルとして注目されています。
特徴:
・ライブコマースや短尺動画を通じて、エンタメ性の高い販促が可能。
・タレントやインフルエンサーとのコラボレーションにより、瞬発的な売上アップを狙える。
・TikTok For Businessの広告メニューと連携させることで、効果的なターゲティングが可能。
ビジュアル訴求力の高い商品(ファッション、雑貨、コスメなど)との相性が良く、映える商品を扱う個人セラーには大きなチャンスがあります。
5.Amazon(アマゾン)
Amazonは世界最大級のECプラットフォームであり、東南アジアにおいてもタイ、シンガポールを中心に一定のシェアを持ちます。日本の出店者にとっては既存の「Amazon Global Selling」や「FBA(Fulfillment by Amazon)」を活用することで、スムーズな越境販売が可能です。
特徴:
・世界で共通した運用ルールと高いブランド信頼性があるため、購入者の安心感が強い。
・FBAにより現地配送やカスタマーサービスを任せられ、越境EC初心者でも運用がしやすい。
・他のECに比べ競争が激しいが、高品質な商品やレビューの管理次第でリピーター獲得も期待できる。
Amazonは特に、品質に自信のある製品を持つ中小企業や、日本ブランドの信頼性を活かしたい事業者に適したプラットフォームといえるでしょう。
6.Tokopedia(トコペディア)
Tokopediaはインドネシア最大級のオンラインマーケットプレイスで、国内ECの代表的存在です。特に現地ユーザー向けに強みを持ち、GoToグループの一員として国内配送や決済面でも強固な体制を整えています。
特徴:
・インドネシア国内の知名度が非常に高く、日用品から家電、ファッションまで幅広いカテゴリに対応。
・モバイルファーストな設計で、地場ユーザーにとって非常に使いやすいUIを提供。
・現地物流企業との提携により、配送や決済の面でも安定性が高い。
Tokopediaは、インドネシア市場に特化したい企業や、現地代理店を通じた越境EC戦略を検討している場合に非常に有効な選択肢です。
7.Bukalapak(ブカラパック)
Bukalapakは、インドネシアでTokopediaと並ぶ大手オンラインマーケットプレイスです。中小規模の店舗を支援する姿勢が強く、地方都市や中所得層の利用者に根強い人気があります。
特徴:
・地方都市への浸透率が高く、価格重視の消費者に支持されている。
・B2B向けのサービスも展開しており、現地の小売業者との取引にも発展可能。
・地元インフルエンサーとの連携や、SNSと連動した販促施策が取りやすい。
Bukalapakは、低価格帯の商品や生活必需品などを展開する企業にとって、インドネシアの幅広い消費者層にアプローチできるプラットフォームです。
8.Tiki(ティキ)
Tikiはベトナム発のECサイトで、ベトナム国内で高いブランド信頼を得ているローカルプラットフォームです。品質重視の商品を中心に扱っており、配送の迅速さやアフターサービスにも定評があります。
特徴:
・独自の物流ネットワークを持ち、配送スピードが非常に速い。
・偽造品対策を強化しており、品質重視の購入層に支持されている。
・商品審査が厳しく、出店には一定の信頼性が求められる。
Tikiは、ベトナム市場に品質重視の商品を展開したい企業や、現地顧客との信頼関係を重視する事業者に適しています。
9.Sendo(センド)
SendoはTikiと並ぶベトナムの代表的なECプラットフォームで、地方都市のユーザー層や、低価格帯の商品に強みを持っています。特にモバイル経由の購入が多く、キャンペーンやフラッシュセールが頻繁に実施されています。
特徴:
・地方ユーザーへのリーチ力が強く、価格訴求力のある商品が売れやすい。
・モバイル経由での利用が非常に多く、アプリ運用が重要。
・コストを抑えた出店が可能で、初期費用が低く始めやすい。
Sendoは、コストパフォーマンスを重視する商品や、現地需要に合わせた価格設計が可能なビジネスモデルに適したプラットフォームです。
5.越境EC事業に関するお悩みは専門家にご相談ください

東南アジアをはじめとする海外向けの越境ECは、今や個人事業主や中小企業にとっても大きなビジネスチャンスとなっています。しかしその一方で、言語・物流・決済・法規制・税制など、国ごとに異なる環境に対応しなければならないという複雑さも伴います。
「どのプラットフォームを選べばいいのか分からない」「販売したい商品が東南アジアで売れるかどうか不安」「輸出入の手続きや税務対応はどうしたらいいの?」といった悩みを抱える方も多いのではないでしょうか。特に、海外向けの販売では、文化の違いや現地の顧客ニーズを正しく把握することが成功の鍵となります。個人で取り組む場合には、マーケティング戦略からカスタマー対応まで、すべてを一人で担うのは非常に大きな負担です。
そうしたときには、越境ECに精通した専門家のサポートを受けることが、有効な解決策となります。例えば、越境EC事業を長年支援してきたコンサルタントや、各国の法規制に詳しい弁護士・税理士、物流・決済システムを熟知したパートナー企業などに相談することで、最新の情報に基づいた戦略設計が可能になります。また、現地パートナーとの提携や現地倉庫・配送網の整備など、スムーズな販売・運営体制を築くうえでも重要なステップです。
複雑な海外展開も、信頼できるパートナーとともに取り組めば着実に成功に近づきます。越境ECの第一歩を、専門家の知見と経験を活用しながら、より確実で安心なものにしていきましょう。