目次
1.越境EC事業とは

越境EC事業とは、インターネットを通じて国境を越え、海外の消費者に対して商品やサービスを販売する事業をいいます。たとえば、日本国内の事業者が自社ECサイトやAmazon、eBay、Shopeeなどの海外向けプラットフォームを利用し、アメリカや韓国、ヨーロッパ、東南アジアの顧客に商品を販売するケースが代表例です。従来の海外展開では、現地法人の設立や代理店契約、実店舗の出店など、多額のコストと時間を要するのが一般的でした。しかし、越境ECであれば、比較的少ない初期投資で海外市場にアクセスできるため、中小企業やスタートアップにとっても現実的な海外進出手段として注目されています。
越境EC事業の特徴は、国内ECと比べて販路を大きく広げられる点にあります。日本国内では人口減少や市場成熟の影響により需要の伸びが限定的な分野でも、海外では日本製品への信頼や関心が高く、十分な販売機会が見込まれる場合があります。特に、化粧品、健康食品、アパレル、アニメ関連商品、日用品などは、海外市場で人気を集めやすい商材とされています。こうした分野では、実店舗を持たずともオンライン上で需要を取り込めることが、越境ECの大きな魅力です。
もっとも、越境EC事業は単に「海外に向けて商品を発送すればよい」というものではありません。販売対象国ごとに、消費者保護法、表示規制、輸入規制、個人情報保護、決済、返品対応などのルールが異なるため、国内ECにはない複雑さがあります。さらに、配送遅延や関税負担、為替変動、不正利用といった実務上のリスクにも備える必要があります。つまり、越境EC事業とは、海外の消費者に商品を届けるビジネスであると同時に、各国の法制度や商習慣に対応しながら継続的に運営していく事業でもあります。そのため、成功のためには、販売戦略だけでなく、法務・物流・決済を含めた総合的な設計が重要となります。
2.越境ECの市場規模と今後の展望

経済産業省の「令和6年度電子商取引に関する市場調査報告書」によれば、2024年の世界のBtoC-EC市場規模は6.09兆USドル、EC化率は20.1%と推計されており、越境ECを含む電子商取引市場が巨大な規模に成長していることが分かります。また、日本の越境BtoC-EC(米国・中国)の総市場規模は4,410億円となっており、その内訳として米国向けが3,945億円、中国向けが466億円と、特定の国においても大きな市場が形成されています。このように、越境ECは数百億円から数兆規模に及ぶ成長市場として、今後も拡大が期待される分野といえるでしょう。
越境ECの市場規模は、世界的なEC利用の拡大を背景に、今後も成長が期待される分野です。インターネット環境やスマートフォンの普及、国際配送網の整備、オンライン決済手段の多様化により、消費者が国境を越えて商品を購入することは以前よりも身近になりました。特に、自国では入手しにくい商品や、品質面で信頼できる海外ブランドの商品を求める動きは各国で広がっており、越境ECは単なる一時的な流行ではなく、継続的な市場拡大が見込まれる取引形態となっています。
日本企業にとっても、越境EC市場の拡大は大きな事業機会を意味します。日本国内では少子高齢化や人口減少の影響により、多くの業界で市場の伸びが限定的といわれていますが、海外に目を向ければ人口増加や中間所得層の拡大が進む国や地域が多く存在します。たとえば、アメリカ、中国、韓国、東南アジア、ヨーロッパなどでは、ECそのものが生活インフラとして定着しており、日本製の化粧品、食品、日用品、アニメ関連商品などに対する需要も高い傾向があります。このため、国内需要だけに依存せず、新たな売上の柱を確保する手段として越境ECへの関心は高まっています。
今後の展望としては、単に「海外へ売る」だけでなく、各国の消費者ニーズに合わせた戦略が一層重要になると考えられます。競争が激しくなる中では、価格だけでなく、配送スピード、返品対応、現地語での顧客対応、信頼感のある商品説明など、購入体験全体の質が問われるようになります。また、各国で消費者保護や個人情報保護に関する規制が強化される傾向にあるため、今後は法的対応の重要性もさらに高まるでしょう。つまり、越境EC市場は今後も拡大が期待できる一方で、成功するためには市場の成長性だけを見るのではなく、物流・法務・マーケティングを含めた総合的な対応力が求められる分野といえます。
3.越境EC成功のための戦略

越境ECを始める際は、海外向けのECサイトを開設するだけで成功するわけではありません。国内ECとは異なり、販売先の国や地域ごとに、消費者ニーズ、輸入規制、関税、配送方法、決済手段、法規制などが大きく異なるため、段階的に準備を進めることが重要です。特に、事前調査が不十分なまま販売を開始すると、「そもそも商品が輸出できなかった」「配送費が高すぎて利益が出ない」「現地で使われる決済手段に対応しておらず購入につながらない」といった問題が生じるおそれがあります。越境ECを安定して運営するためには、販売国・商品選定から物流、決済、集客、販売開始後の運用までを一連の流れとして整理し、実務面と法務面の両方から準備することが大切です。以下では、越境ECで事業を行う際の基本的な手順を順に紹介、解説します。
3-1. 販売先となる国・地域および取扱商品の選定
越境ECを始める第一歩は、どの国や地域に、どのような商品を販売するのかを明確にすることです。海外市場といっても、国によって消費者の嗜好、所得水準、人気のある商品カテゴリ、競合状況は大きく異なります。たとえば、日本製コスメが人気の高い国もあれば、食品やアニメ関連商品への需要が強い国もあります。そのため、自社商品がどの市場で受け入れられやすいのかを調査し、ターゲットを絞ることが重要です。また、販売対象を広げすぎると、言語対応や配送体制、法規制対応が複雑になるため、最初は特定の国や地域に集中した方が実務上は進めやすいでしょう。さらに、商品の特性も重要です。壊れやすいもの、消費期限が短いもの、サイズや電圧の違いが問題になるものは、越境ECではハードルが高くなることがあります。市場ニーズと商品の適合性を見極めることが、越境EC成功の出発点になります。
3-2. 対象商品の輸出可否・販売可否の確認
販売したい商品が決まっても、その商品が実際に海外へ輸出できるとは限りません。越境ECでは、日本側の輸出規制だけでなく、相手国側の輸入規制や販売規制も確認する必要があります。たとえば、食品、化粧品、医薬品、サプリメント、電化製品、乳幼児向け商品などは、国によって成分規制、安全基準、表示義務、許認可の有無が異なるため、事前確認が不可欠です。仮に規制に適合していない商品を販売してしまうと、通関で差し止められたり、現地で販売停止となったりする可能性があります。また、模倣品規制や知的財産権の問題にも注意が必要です。日本では適法に販売できる商品であっても、海外では商標やデザインの権利関係が問題になることもあります。したがって、越境ECを始める前には、「輸出できるか」「相手国で輸入・販売できるか」「表示や認証が必要か」といった点を整理し、必要に応じて専門家や支援事業者に確認しながら進めていくと安心でしょう。
3-3. 発送方法・関税・通関に関するルールの確認
越境ECでは、商品をどのように海外へ届けるかという物流設計が極めて重要です。国内配送と異なり、国際配送では送料が高くなりやすく、配送日数も長くなるため、事前に発送方法を十分に検討する必要があります。たとえば、国際郵便、クーリエ、海外倉庫の活用など複数の方法があり、商品の価格帯やサイズ、配送スピードの要求に応じて最適な方法は異なります。また、関税や輸入消費税の扱いも重要です。国によっては、一定額を超える商品に関税や付加価値税が課され、購入者側の負担となる場合があります。こうした費用の説明が不十分だと、受取拒否やクレームにつながるおそれがあります。そのため、販売時点で関税込み価格にするのか、購入者負担とするのかを明確にしておくことが大切です。さらに、返品時の送料負担や再配送のルールもあらかじめ設計しておくべきでしょう。越境ECでは、発送と関税のルールが顧客満足度や利益率に直結するため、慎重な確認が必要となります。
3-4. 販売チャネルおよび決済手段の検討と事前準備
越境ECでは、どの販売チャネルを使うか、どの決済手段に対応するかによって売上や運営負担が大きく変わります。販売方法としては、自社ECサイトを構築する方法と、Amazon、eBay、ShopeeなどのECモールを利用する方法が代表的です。自社ECはブランドの世界観を反映しやすく、顧客データを蓄積しやすい一方で、集客を自ら行う必要があります。これに対し、ECモールは既存の集客力を活用できる反面、手数料負担や規約制約があります。あわせて、ECサイトの申込みや構築、多言語対応、通貨設定、返品ポリシーの整備なども進める必要があります。また、配送方法や運送委託先の選定も重要で、信頼性、コスト、追跡機能の有無などを比較して決めることが求められます。さらに、決済方法については、クレジットカードだけでなく、販売国で普及している決済サービスに対応することが購入率向上につながります。海外の利用者に安心して利用できる購入環境を提供することが、越境ECでは特に重要です。
3-5. 集客施策の設計と実施
越境ECでは、販売の仕組みを整えるだけでは十分ではなく、海外の見込み客に商品を知ってもらうための集客施策が欠かせません。特に自社ECサイトでは、サイトを開設しただけで自然に売上が立つことは少なく、SEO対策、SNS運用、広告配信、インフルエンサー施策などを組み合わせて集客する必要があります。国や地域によって主要な検索エンジンやSNS、購買導線は異なるため、ターゲット市場に適した方法を選ぶことが重要です。たとえば、ある国ではInstagramやTikTokが有効でも、別の国では検索エンジンや現地モール内広告の方が効果的な場合があります。また、商品ページや広告文を現地の言語や文化に合わせて最適化することも大切です。単なる翻訳ではなく、現地消費者が魅力を感じる訴求ポイントを意識しなければ、購入にはつながりにくくなります。越境ECでは、物流や決済だけでなく、現地市場に合った集客戦略を継続的に改善していくことが成功の鍵となります。
3-6. 商品登録を行い、販売を開始する
準備が整ったら、実際に商品情報を登録し、販売を開始します。この段階では、単に商品名や価格を入力するだけでなく、海外消費者が安心して購入できる情報を十分に掲載することを心がけます。たとえば、商品の特徴、素材、サイズ、使用方法、注意事項、配送日数、返品条件などを分かりやすく記載することで、購入前の不安を減らし、問い合わせや返品の発生も抑えやすくなります。特に越境ECでは、言語の壁や実物を確認できない不安があるため、商品説明の質が売上に大きく影響します。また、販売開始後は、受注管理、在庫管理、顧客対応、レビュー管理などの運用が始まります。最初から大規模に展開するのではなく、まずは少数の商品や限定した地域から始め、配送トラブルや顧客対応の課題を確認しながら改善していく方法が現実的です。越境ECは販売開始がゴールではなく、開始後の運用改善によって事業として成長させていくことが重要です。
4.弁護士が解説!越境ECで事業を行う際に気を付けるべき法的注意点

越境ECは、国内にいながら海外の消費者へ商品を販売できる有力な手段ですが、その一方で、国内取引にはない法的リスクを伴います。特に注意すべきなのは、「日本で適法に販売できる商品であっても、海外ではそのまま販売できるとは限らない」という点です。国や地域ごとに、消費者保護法、表示規制、個人情報保護、製品安全基準、輸入規制などが異なり、これらを十分に確認しないまま販売を始めると、通関トラブル、販売停止、返金対応、行政上の指摘などにつながる可能性があります。また、利用規約や返品条件の整備が不十分であると、顧客との紛争が発生した際に自社に不利な状況となるおそれもあります。越境ECを安定的に運営するためには、販売戦略だけでなく、進出先ごとの法規制を理解し、契約・表示・運用体制を適切に整備しておくことが重要です。
4-1. 国別の法規制
4-1-1. アメリカ
アメリカ向けに越境ECを行う場合は、連邦法だけでなく州法にも注意する必要があります。アメリカは州ごとに消費者保護やプライバシー規制の内容が異なるため、一律のルールで対応しにくい点が特徴です。たとえば、カリフォルニア州では個人情報保護に関する規制が比較的厳しく、顧客データの取得や利用方法について適切な説明が求められる場合があります。また、製品によっては安全基準や表示義務があり、子ども向け製品、化粧品、健康関連商品などでは特に慎重な確認が必要です。広告表現についても誇大表示や誤認を招く表現は問題となりやすく、「効果がある」「安全である」といった記載に合理的根拠が求められる場面があります。さらに、返品や返金対応については、州法や販売条件の定め方によってトラブルになることもあるため、販売前に利用規約や表示内容を整理しておくことが重要です。
4-1-2. 韓国
韓国向け越境ECでは、表示規制や輸入規制、電子商取引に関するルールへの対応が重要になります。韓国はEC利用が非常に活発で、日本製品への関心も高い市場ですが、その一方で消費者保護の観点から返品、返金、表示に関するルールが問題となることがあります。特に化粧品、食品、健康関連商品などは、成分表示や輸入時の規制に注意が必要であり、日本で一般的に流通している商品であっても、韓国でそのまま販売できるとは限りません。また、商品ページの表記や広告表現についても、誤認を与える内容は避けるべきです。さらに、韓国では検索プラットフォームやモールの影響力が強く、モール出店時には各プラットフォーム独自のルールにも従う必要があります。法令そのものに加え、実務上はプラットフォーム規約や現地商習慣を踏まえて販売条件を整えることが、トラブル防止の観点から重要といえるでしょう。
4-1-3. ヨーロッパ
ヨーロッパ向け越境ECでは、EU域内の共通ルールを意識した対応が必要です。特に重要なのは、消費者保護と個人情報保護に関する規制です。EUでは、通信販売における消費者の権利保護が比較的強く、一定期間内の解除権や返品に関する考え方が日本より広く認められる場合があります。そのため、日本国内向けの返品ポリシーをそのまま流用すると、現地ルールに適合しない可能性があります。実際に、EUの消費者保護制度を十分に理解しないまま販売を行い、返品対応を巡ってトラブルになった事例も報告されています。
また、個人情報保護についてはGDPRが広く知られており、EU居住者の個人データを取得・利用する場合には、取得目的や利用方法を明確に示し、適切に管理する必要があります。さらに、製品によってはCEマーキングなどの安全基準対応が必要となる場合もあり、電気製品や玩具などでは特に注意が必要です。EUは市場として魅力が大きい一方、法規制への対応が不十分だと販売停止や苦情対応につながるため、事前準備が重要です。
4-1-4. 東南アジア
東南アジア向け越境ECでは、一つの地域として捉えられがちですが、実際には国ごとに法制度や輸入規制、商習慣が大きく異なります。そのため、「東南アジア向け」と一括りにして対応すると、思わぬ法的リスクが生じることがあります。たとえば、シンガポールは比較的制度が整っており越境ECを進めやすい一方で、インドネシアやタイ、ベトナムなどでは輸入許可、表示義務、現地語対応などが問題となる場合があります。特に食品、化粧品、健康食品、医療関連製品などは、各国で登録や許認可が必要となることがあり、規制確認を怠ると通関で止まるリスクがあります。また、偽広告や消費者保護に関するルールも国によって異なるため、商品説明やキャンペーン表現にも注意が必要です。東南アジアは成長市場として有望ですが、国ごとの差異を前提に、進出先ごとに販売条件や表示対応を整えることが重要です。
4-2.関税
越境ECで事業を行う際には、関税の仕組みを十分に理解しておくことが重要です。関税とは、海外から商品を輸入する際に課される税金であり、商品の種類、価格、原産地、輸入先の国や地域によって税率や課税方法が異なります。越境ECでは、この関税負担を誰が負うのかが実務上の大きなポイントとなります。たとえば、購入者が商品受領時に関税や輸入消費税を支払う仕組みの場合、事前説明が不十分だと「思ったより高額な費用がかかった」として受取拒否やクレームにつながることがあります。一方、販売者側があらかじめ関税込みの価格設定を行う方法であれば、購入者にとって分かりやすい反面、販売者側の価格設計や利益管理は複雑になります。
また、関税は単にコストの問題にとどまらず、通関実務や販売条件の整備にも関係します。商品のHSコードの分類を誤ると、本来より高い税率が適用されたり、通関手続で問題が生じたりする可能性があります。さらに、国によっては一定金額以下の少額輸入について関税が免除される制度もありますが、その基準額や適用条件は一律ではありません。そのため、販売先ごとに関税の有無や税率、免税基準を把握し、商品ページや利用規約で負担関係を明確にしておくことが重要です。越境ECでは、関税対応が曖昧なまま販売を開始すると、顧客満足度の低下や想定外のコスト発生につながりやすいため、事前に丁寧な設計を行う必要があります。
5.越境EC事業に関するお悩みは、EC専門の企業弁護士にご相談ください

越境ECは、国内にいながら海外の消費者へ商品やサービスを販売できる有力な手段であり、海外市場への販路拡大を目指す企業にとって大きなビジネスチャンスとなっています。もっとも、実際に事業を始めるにあたっては、販売国の選定、輸出可能な商品の確認、発送方法や関税への対応、決済手段の整備、各国の法規制の確認など、事前に整理すべき事項が数多くあります。これらの準備には多くの業務が発生し、それぞれに一定のコストや手間がかかる点にも留意が必要です。とくに越境ECでは、国内取引とは異なり、国ごとに異なるルールや商習慣を踏まえて準備を進める必要があります。
実際に、「自社の商品が海外で販売できるのか分からない」「利用規約や返品条件をどこまで整備すべきか不安がある」「関税や現地法規制への対応に漏れがないか確認したい」といったご相談は少なくありません。こうした課題については、必要な対応事項を一覧で整理したうえで、専門家と連携しながら進めることで、リスクを適切に管理することが可能になります。越境EC事業を円滑に立ち上げるためには、国際取引や各国規制に関する知見を有する専門家の支援を受けることが有効です。越境ECの導入や運用に不安がある場合は、ぜひEC専門の企業弁護士へご相談ください。





