目次
1. はじめに
現代のビジネスシーンにおいて、国境を越えた商品の販売は、企業の成長戦略において欠かせない要素となっています。特に、越境ECを利用した食品販売は、日本企業にとって大きなチャンスを提供します。
この記事では、食品を中心に、越境ECの市場全体像、販売のメリット、そして実践における注意点を詳しく解説します。日本の豊かな食文化を世界に広げ、新たな顧客層を獲得するための戦略を、この記事を通じて考えていきましょう。
2. 越境ECにおける食品販売の全体像
2-1. 市場規模
越境EC(電子商取引)を利用した食品販売は、日本の食文化を世界に広げる有効な手段となっています。特に健康志向の高まりや、日本食の国際的な人気により、日本の農林水産物や加工食品の海外市場への進出が進んでいます。
「平成29年度 日本からの電子商取引(EC)を用いた農林水産物・食品の輸出に関する調査」によると、越境ECを通じての日本食品の市場規模は約1,574億円にのぼります。この中で、特に人気が高いのは、健康食品(613億円)、菓子(404億円)、調味料(113億円)、そして緑茶(103億円)です。これらの商品は賞味期限が比較的長く、サイズがコンパクトであるため、海外輸送に適しており、国際的な消費者に受け入れられやすい特性を持っています。
一方で、輸出額が小さかった食品には穀物(14億円)や生鮮品(10億円)が含まれます。これらの商品は賞味期限が短く、輸送中に品質が低下しやすい、または体積が大きくなりがちであるため、越境ECを通じた販売には向いていないとされています。
これらのデータから、越境ECにおける食品販売においては、商品の特性を考慮した戦略が必要であることがわかります。長期保存が可能で、かつ輸送効率が良い商品を選ぶことが、成功への鍵といえるでしょう。
2-2. 人気の食品
越境ECにおける食品販売では、特定の商品が国際市場で高い人気を博しています。これらの商品は、その取り扱いやすさや保存性の良さから、海外の消費者に受け入れられやすい特徴を持っています。ここでは、越境ECで特に人気のある食品と、その取扱いやすさのポイントについてまとめていきます。
軽量で体積が小さい食品は、国際輸送のコストを大幅に削減できるため、越境ECでの取り扱いに最適です。例えば、緑茶や日本の茶葉製品は、そのコンパクトさから国際配送に適しており、多くの国で人気を集めています。
賞味期限が長い商品は、長期間の輸送や保管が可能であるため、越境ECで扱う際に大きなアドバンテージとなります。健康食品や調味料(例えば味噌や醤油)は、その長い保存期間により、世界各国の消費者に安定して供給することができます。
温度や鮮度の管理が容易な商品も、越境ECでの販売に適しています。特に、常温で保存可能な加工食品や菓子類は、特別な温度管理を必要としないため、国際的に広く流通しやすいです。例としては、和菓子や乾燥スナックが挙げられます。
これらの食品は、その保存性や取り扱いの容易さから、越境ECのモデルとして非常に適しています。これらの食品の国際的な需要を理解し、効果的なマーケティング戦略を展開することが、越境EC成功の鍵となるでしょう。
2-3. 実施事例
越境EC市場における日本食品の販売事例は、その多様性と国際的な魅力で注目されています。特に日本のお菓子、地域限定商品、伝統的な和菓子、そして日本の飲料は大きな成功を収めています。以下に具体的な実施事例を挙げ、その成功の理由を探ります。
日本のお菓子:
日本からのお菓子は、そのユニークな味と高品質で世界中にファンを持っています。例えば、キットカットの地域限定フレーバーは、抹茶やさくらなど日本ならではの味が特徴で、海外での人気が高まり、越境ECサイト上での販売が急増しました。これらの商品は、日本文化への興味を引き付ける要素として機能しています。
地域限定商品:
地域限定商品は、地域の特色を活かした独特のパッケージデザインと風味で、記念品やギフトとしても求められており、越境ECを通じて広範囲に販売されています。
和を感じられるお菓子:
和菓子はその繊細な美しさと風味で、国際的に高い評価を受けています。特に、外国人観光客に人気の高い「抹茶」や「桜」を取り入れたアイテムは、健康志向と和のテイストを求める消費者に受け入れられ、越境ECでの需要が拡大しています。
緑茶と日本酒:
健康とウェルネスのトレンドにより、緑茶や日本酒の輸出が増加しています。特に「八海山」「月桂冠」「久保田」「男山」といった有名日本酒は、その高品質と独特の風味が評価され、世界中の高級レストランやバーで取り扱われるようになりました。これらの飲料は、日本食ブームとともに、健康的で洗練されたライフスタイルの象徴として選ばれています。
これらの事例から分かるように、越境ECを通じた食品販売は、日本文化の魅力を伝える重要な手段となっています。それぞれの商品が持つ独特な特性を活かすことで、国際市場での成功を収めることが可能です。
3. 越境ECにて食品販売を行うことのメリット
3-1. 市場拡大
越境ECを活用することで、企業は地理的制約を超えて製品を展開し、新しい市場にアクセスすることが可能です。特に、国内市場における成長の限界を感じている企業にとって、海外市場への進出は大きな機会を提供します。日本食品のように独特の文化的価値を持つ商品は、グローバルな消費者の興味を引き、未開拓の市場において新たな顧客層を獲得することができます。これにより、売上の増加だけでなく、事業の多様化と安定性向上にも寄与します。
3-2. ブランド認知度
越境ECは、ブランドの国際的な認知度を高める効果的な手段です。オンラインプラットフォームを通じて、広範囲の消費者に対して直接アプローチが可能となり、ブランドのビジュアルやストーリーをグローバルに展開できます。特にSNSやデジタルマーケティングを併用することで、海外の消費者とのコミュニケーションを強化し、ブランドロイヤリティの構築を図ることが可能です。これにより、国際市場でのブランドの立ち位置を確固たるものにし、長期的な競争力を保持することができます。
3-3. 低リスク
伝統的な海外進出モデルと比較して、越境ECを利用した海外進出は、投資額やリスクを大幅に削減できます。実店舗の設立や現地法人の設立が不要であるため、初期投資を抑えることができ、また、市場の反応を見ながら段階的にサービス・事業を拡大することが可能です。さらに、オンラインデータを利用して市場のニーズやトレンドをリアルタイムで把握し、迅速に対応することができるため、ビジネスの柔軟性が増します。このように、越境ECは効率的でリスクの低い国際展開を実現します。
4. 越境ECで食品販売を行ううえでの注意点
4-1. 法律や制度
越境ECで食品を販売する際は、各国の法律や国際基準に厳密に従う必要があります。特に「CODEX(国際食品規格委員会)」の基準、「HACCP(危害分析重要管理点)」システムの適用、および「FDA(アメリカ食品医薬品局)」の規制は重要です。これらの規制は食品の安全性を保証し、消費者への信頼を築くために不可欠です。例えば、FDAは輸入食品の安全基準を設定しており、これに適合しない商品は米国市場へのアクセスが禁止されます。事業者はこれらの規定に習熟し、適切な認証を取得することが求められます。
4-2. 配送時の対応
食品の国際発送では、商品の品質を維持するための特別な注意が必要です。これには適切な温度管理、湿度管理、衛生管理が含まれます。特に、生鮮食品や冷凍食品など、腐敗しやすい商品は、輸送中に品質が劣化しないように特殊なパッケージングや冷蔵・冷凍施設が整った物流で一定温度に維持できる環境を用意する必要があります。また、長距離輸送に耐えられる梱包材の選定も重要であり、商品が目的地に到着するまでの全行程で品質が保たれるよう配慮することが必須です。
4-3. 輸入規制品等の調査
各国は特定の食品に対して輸入規制を設けており、これには健康、安全、環境保護の観点からの制限が含まれます。例えば、特定の添加物や農薬が含まれる製品は輸入が制限されることがあります。事業者は目標市場の輸入規制を事前に詳細に調査し、該当する食品の販売が可能かどうかを確認する必要があります。
販売許可を得るために、原材料の一覧など詳細な情報を提示する場合もあります。これには、関税や税制の違いも国・地域ごとに含まれるため、国際的な法律や規制に精通した専門家と協力して、遵法する販売計画を立てることが重要です。規制に適切に準拠しない場合、罰金を徴収されたり、販売停止といった措置を受けたりするリスクがあります。
5. 海外進出・海外展開における影響
海外進出は、日本企業にとって大きなチャンスであり、挑戦でもあります。越境ECを通じて食品販売を行うことにより、市場拡大、ブランド認知度の向上、低リスクでの国際展開が可能となります。しかし、成功を収めるためには、各国の法律や食品安全規制への遵守、適切な配送管理、輸入規制の理解と対応が必要です。これらの要素を丁寧に計画し、実行に移すことで、世界市場での競争力を高め、持続可能な成長を実現することができるでしょう。海外展開は、単に販路を広げるだけではなく、企業の多様性と革新性もまとめて世界に示す絶好の機会です。