目次
はじめに

近年、海外の消費者に向けて商品を販売する「越境EC(クロスボーダーEC)」は、EC事業者にとって大きな成長チャンスをもたらしています。国内市場の縮小を補う手段としても注目されており、アジアや欧米を中心に、多くの企業が海外展開を本格化させています。
しかし、越境ECを始めるうえで必ず理解しておくべき要素のひとつが「関税」や「消費税」など、商品にかかる税金や制度です。国ごとに異なる課税ルールや、一定の金額を超えた場合に課税される基準が設けられており、免税の対象外となるケースもあるため、慎重な確認が必要です。それに適切に対応できないと、顧客とのトラブルや配送遅延、最悪の場合は通関拒否に発展してしまうリスクもあります。
この記事では、越境ECに関わる関税や消費税、そして各国の税率や免税制度などについて、現在の制度に基づく正確な情報をまとめてお伝えします。国別の関税一覧も掲載し、越境EC事業者が注意すべきポイントを明確にしていきます。さらにはトラブルを防ぐための実務対応策までを詳しく解説します。これから越境ECに挑戦する方も、すでに事業を展開している方も、ぜひ参考にしてください。
越境ECに関わる関税とは?基本の仕組みを解説

越境ECで最初に知っておくべき税のひとつが「関税」です。越境EC(クロスボーダーEC)における「関税」とは、ある国から別の国へ商品を輸出・輸入する際に、輸入国の政府によって課される税金のことを指します。これは、ある国から別の国へ商品を輸入する際に、輸入国側の政府が課す税金であり、主に以下の目的で設けられています。
・国内産業の保護:外国製品が国内市場に大量流入することで、地元企業の競争力が損なわれることを防止
・国家の財源確保:関税は国の収入の一部として利用されます
取引される製品の種類・価格・性質・原産国などによって、税率や課税条件が大きく異なります。
商品価格や種類によって税率が異なる理由
例えば、高級ブランド品や電子機器などは課税対象となることが多く、免税の適用外になることが一般的です。さらに、関税の計算にはHSコード(Harmonized System Code;国際統一商品分類コード)をもとに製品カテゴリごとの税率が設定されており、同じ商品でも国ごとに異なる扱いを受ける場合があります。したがって、販売対象国ごとの関税ルールを事前に確認することが非常に重要です。
また、関税だけでなく、輸入時には付加価値税(VAT)や消費税、特定商品に対する規制や検疫など、複数の制度が重なるケースも少なくありません。
関税の徴収方法は主に2種類|DDU方式とDDP方式
越境ECで商品を販売する際、関税・消費税の徴収方法には主に以下の2つの方式があります。
方式 | 概要 | 購入者の支払い有無 | 特徴・リスク | メリット・デメリット |
---|---|---|---|---|
DDU (Delivered Duty Unpaid/関税未払い) | 商品の価格に関税を含まず、消費者が受け取り時に関税を支払う方式 | あり | 関税を支払うタイミングが不透明なため、追加費用発生によるカゴ落ちや返品リスクがある。 | 商品価格は安く見えるが、受取時の追加料金でカゴ落ちや返品リスクあり。 |
DDP (Delivered Duty Paid/関税込み) | 出品者が関税や消費税を事前に計算して負担し、商品価格に含める方式 | なし (すでに価格に含まれている) | 価格は上がるが、購入者が受ける不満やトラブルを減らせる。プラットフォームや自社サイトでよく使われる。 | 購入者に追加負担がないため満足度が高く、リピート率向上が期待できる。 |
DDU方式の注意点:
DDU方式では、一見すると商品の表示価格を低く抑えることができ、価格競争力を高められるように思えますが、購入者が商品到着時に関税・手数料の支払いを求められるため、トラブルに発展しやすいのが難点です。購入者が商品受取時に突然関税や手数料を求められ、「思っていたより高くついた」「突然の課税で受け取りを拒否した」「追加料金がかかり過ぎて受け取り拒否」などのトラブルに発展するケースもあります。特に新規顧客との取引では、信頼性の低下や返品対応コストが発生するリスクが高まります。
DDP方式のメリットと活用例:
DDP方式を採用することで、出品者側が負担するため価格は上がります。しかし購入者側に追加費用が発生しないため、購入率が向上し、クレームの発生も減少します。現在は、AmazonやShopeeなどの越境ECプラットフォームでもDDP方式が推奨されており、自社ECサイトでもDDP価格を表示することが、消費者満足度の向上につながります。
関税方式の選択が売上・信用に直結
越境ECで成功するためには、国ごとに異なる関税ルールを理解し、DDU・DDPの違いを正しく把握して使い分けることが求められます。特にDDP方式は、「購入者に余計な手間や不安を与えない」点で、顧客満足度の向上に直結します。
企業が自社ECサイトを運営する際や、複数国への発送を行う場合には、DDP方式の導入を検討することが推奨されます。
【国別】越境ECの関税と消費税についての一覧

越境EC(クロスボーダーEC)では、販売対象国ごとに異なる関税制度・消費税制度を正確に把握しておくことが、自社のビジネス成功に直結します。各国には独自の税制や免税制度が存在し、取扱商品・価格帯・取引形式(BtoB/BtoC)によって税負担が大きく変わるためです。
以下では、越境ECの主要市場における関税・消費税制度の概要と、実務上のポイントをわかりやすく解説します。
アメリカ:de minimis制度で小口輸出に有利
・免税条件:商品価格が 800ドル以下 の場合、「de minimis制度」により、関税・消費税が免除。
・対象取引:主にBtoCに適用。商業インボイスが必要。
・注意点:
○衣類や一部電化製品など、品目によっては免除対象外。
○800ドルを超えると即座に関税・州税(Sales Tax)が課税されます。
○自社サイトでの販売でも、各州での売上税登録(Nexus)義務が発生する場合あり。
小額・個人向け商品の販売が主力の場合、米国市場は参入ハードルが低いが、高額商材は要注意。
中国:EC専用の優遇制度あり(政策が頻繁に改正)
・免税・優遇条件:
○「越境電子商務零售輸入税政策」により、1回500元以下・年間5,000元までは軽減税率が適用。
○対象は「中国政府指定の越境ECリスト商品」に限られる。
・注意点:
○上限超過分や非対象品には一般貿易税率が適用。
○商品によっては、輸入制限・検疫の対象となる(特に食品・化粧品・サプリ)。
○商品の原産地証明書(CO)や成分表の提出が求められることもある。
リスト掲載商品の中から、健康食品・美容系などを中心に展開する企業には優位性あり。
台湾:個人輸入に有利な免税枠あり、食品・化粧品は規制に注意
・免税条件:商品価格が 2,000台湾ドル(約9,000円)以下 の場合、関税・営業税(VATに相当)ともに免除される。
※同一人が 半年に6回まで の制限あり(超過すると免税対象外)。
・対象取引: 主にBtoCの個人輸入に適用。インボイスや受取人情報の正確な記載が必要。
・注意点:
○食品、健康食品、化粧品などは成分表や使用説明書の中文表記が必要になるケースあり。
○医薬品やサプリメントは輸入許可証が求められる場合があり、事前調査が必須。
○輸入品が商業輸入扱いと判断された場合、関税・営業税(5%)が課税され、通関手続きが煩雑になる。
○高額・高頻度取引では「個人使用」と見なされないリスクあり。
・実務上のポイント:
○商品単価が安く、リピート性の高い消費財(美容・雑貨・軽衣料など)は越境ECに向いている。
○免税範囲内に収めた小口配送戦略が有効。
○現地パートナーや台湾国内倉庫を活用した転送・現地販売モデルも検討価値あり。
EU諸国:VAT(付加価値税)課税が標準に
・免税制度:2021年7月以降、すべてのEC商品にVATが課税。免税枠は原則廃止。
・申告制度:IOSS(Import One-Stop Shop)制度により、EU全域のVATを一括申告可能。
・注意点:
○IOSS未登録の場合、購入者が税金を支払うDDU扱いとなり、通関遅延やカゴ落ちのリスクが高まる。
○国によってVAT率は異なる(例:ドイツ19%、フランス20%、スウェーデン25%など)。
自社ECサイトでEU向け販売を行う企業は、IOSS登録をしてDDP価格を提示するのが望ましい。
シンガポール:免税範囲あり、簡易な通関制度
・免税条件:商品価格が 約400SGD以下(約4万円未満)の場合、関税・消費税が免除。
・特徴:
○高額商品以外は実質的に関税が発生しにくい。
○通関プロセスも比較的スムーズ。
・注意点:
○価格が一定額を超えると GST(物品・サービス税)8%(2025年時点) が課税される。
単価の安い商品を扱う自社サイトにとって、東南アジアの中でもシンガポールは非常に取り組みやすい市場。
タイ:化粧品・健康食品に人気
・免税枠:商品価格が 約1,500THB以下(約6,000円程度)の場合は非課税。
・特徴:
○美容・サプリ市場が拡大中。ShopeeやLazadaなど現地ECサイトと連携可能。
・注意点:
○一部の医薬品や美容液に「原産地証明」「成分ラベル」などの提出義務がある。
○商業輸入として認定されると、関税・VATが同時に課税される可能性も。
BtoCの個人向け輸出であれば参入しやすいが、商業輸入ラインに乗ると税務対応が煩雑化。
日本:輸出側としての税務
・国内の越境EC事業者が海外に販売する場合:
○商品が国外に発送される場合、消費税は免税扱い。
○インボイス・発送伝票の保存が義務付けられ、税務署への証明提出が必要。
・注意点:
○「国内在庫を経由するが、取引は形式上国内取引」とされるケースでは、消費税課税対象となる可能性あり。
○返品時の税還付手続きにも対応が必要。
越境ECにおいては、日本側の消費税対応も忘れずに整備すべき。
以下は代表的な国の関税・消費税の取り決めについてまとめたものです。
国別 関税ルール比較表(2025年時点)
国・地域 | 免税範囲 | 関税・税制の特徴 | 重要な留意点 |
---|---|---|---|
アメリカ | 800ドル以下 | de minimis制度で免税 | 高額品や一部品目は対象外、州税登録が必要な場合も |
中国 | 1回500元/年5,000元 | ECリスト商品に優遇税率 | リスト外商品・超過分は一般税率、書類対応必須 |
台湾 | 2,000TWD以下(半年に6回まで) | 個人輸入は関税・営業税(5%)が免除 | 食品・化粧品に成分表示義務、商業扱いで課税対象、高頻度取引に要注意 |
EU | 免税なし | 全EC商品にVAT課税 | IOSS未導入だとカゴ落ちリスク高、国別税率に注意 |
シンガポール | 約400SGD以下 | 小口輸入が主に免税 | 高額商品にはGST(8%)が課税、簡易通関が魅力 |
タイ | 約1,500THB以下 | 美容・健康分野で越境需要あり | 原産地証明・成分記載の義務化に注意 |
日本(輸出) | 海外発送分は免税 | 消費税の還付対象 | 国内在庫経由のケースでは課税扱いもある |
越境ECにおける日本の消費税の取り扱い

日本の消費税制度では、「輸出取引」は原則として消費税が非課税(免税)扱いとなっています。これは、越境ECにおいても例外ではなく、日本国内から海外に向けて商品を発送する場合、消費税を課さずに販売できるという大きなメリットがあります。
ただし、「輸出」と認められるためにはいくつかの厳格な要件が定められており、条件を満たさない場合は課税対象になる可能性があります。特に「形式上は国内取引」とみなされるケースでは注意が必要です。
輸出取引で消費税が免除される主な条件
・商品が日本国外に発送されること
○実際に海外の住所宛てに配送された事実が必要。
○国内販売や、国内で受け渡されるものは対象外。
・輸出証明書類の保管
○以下の書類の保存と提出が求められます(税務調査で確認されることも):
■ インボイス(仕入書・納品書)
■ 国際配送伝票(EMS、DHL、FedExなどの送り状)
■ 海外発送の証拠(発送完了メール、配送業者の追跡記録など)
○仕向地(輸出先国)が明示されていることが重要。
・販売者が日本国内の事業者であること
○日本国内で消費税課税事業者であることが前提。
○免税事業者には本原則は適用されません。
免税にならない注意すべきケース
1.三国間取引で形式上「国内取引」とみなされる場合
○例:日本国内にある倉庫在庫を使い、購入者が一度日本国内の代理人に商品を受け取り、その後海外に発送するケース。
○この場合、販売時点では「国内販売」として消費税が発生。
2.越境モール経由の取引で形式が不明瞭な場合
○一部のプラットフォームでは、取引形態が曖昧であることがあり、税務処理に迷うケースがある。
○例:注文処理は海外だが、出荷元と請求先が国内の場合など。
3.倉庫業者を通じて海外に発送するが、実態として倉庫が販売主体となっている場合
○国内倉庫が「名義上の販売者」となると、課税対象とされることがある。
いずれも「実態判断」が重要視されるため、税務上の「輸出」扱いにするためには、書面と実務処理の一貫性が不可欠です。
■ 消費税免除を受けるための実務対応ポイント
項目 | 内容 | 備考 |
---|---|---|
インボイスの記載内容 | 商品名・金額・販売先住所 | 英語対応・取引日付明記が望ましい |
配送伝票 | 海外宛の送り状が必要 | EMS、FedExなど公式伝票が有効 |
保存期間 | 7年間 | 税務調査で求められる可能性あり |
返品対応 | 要調整 | 返品品にも適切な記録が必要 |
税務署とのやり取り | 事前相談が推奨 | 不明点は最寄り税務署に確認を |
■ ワンポイント:インボイス制度の影響(2023年施行)
2023年から始まった「適格請求書保存方式(インボイス制度)」により、免税取引であってもインボイスの記載要件が厳格化されています。越境EC取引においても、帳簿と証憑の整合性が税務上より重要視されるようになっています。
越境ECにおける日本の消費税制度は、正しく運用すれば売上価格に対して税負担を軽減できる強力な仕組みです。しかしその一方で、税務的な誤解や書類不備によるリスクもあります。
・「輸出=消費税ゼロ」ではなく、条件を満たして初めて免税扱い
・形式上の取引スキームによって課税対象となる可能性あり
・帳簿・証憑類の正確な管理が不可欠
これらのポイントを踏まえて、税務署への事前相談や、税理士との連携を図ることが、越境ECビジネスの安定運営につながります。
越境ECで関税や税金に関するトラブルを防ぐ方法

関税や消費税に関連するトラブルは、輸入国の税制を正しく理解せずに進めた場合に以下のような原因で発生することが多いです。
・関税の支払者が不明確(DDUかDDPか)
・商品説明やHSコードが不適切
・輸送時の申告漏れや虚偽申告
こうしたトラブルを未然に防ぐには以下の対策があります。
トラブル回避のための4つの対策
① DDP(Delivered Duty Paid)方式で事前に関税を計算、販売者が関税等を事前に負担する。
② 商品ごとにHSコードを確認し、国ごとの税率を把握し、正確な分類を行う
③ 関税計算ツールやECプラットフォームの自動通関機能を活用(例:ShopeeやAmazonの関税計算機能)
④ 通関書類(インボイスや発送伝票)を適切に準備・保存する。
補足:HSコード(統一商品分類)は、国際的に共通の番号で、関税率を決定する重要な情報です。各国税関での分類と一致しないと、課税率が変わったり通関に時間がかかったりする原因になります。
これらの方法を活用することで、消費者が受ける追加費用や不明瞭な税金を減らし、トラブルを回避できます。
越境ECの関税や税務対応はプロに相談するのが正解

「関税を誰が払うのか?」「進出国ごとの関税対応は?」など、越境ECにまつわる税務対応は非常に専門的です。越境ECを効率的に運営するためには、税金の計算や関税の申告処理を簡略化できるサービスを活用することが重要です。例えば、ECプラットフォームが提供する関税計算ツールや、税務申告代行サービスを利用することで、税金の還付手続きもスムーズに行うことができます。
また、税金に関する情報を常に最新のものに保つことも、越境EC事業者にとって重要な要素です。関税や消費税に関する各国の最新ルールや改正情報をチェックすることで、必要な対応ができます。
特に以下のような状況にある事業者は、税務・貿易の専門家や越境EC代行会社への相談をおすすめします。
・初めて越境ECに挑戦する
・特定国でのトラブルが発生した
・複数国への発送ルートを検討している
・消費税免税申請の方法が不明
適切なアドバイスを得ることで、余計なコストやトラブルを防ぎ、安心して海外展開を進めることができます。
まとめ|越境EC成功のカギは「税務知識」と「パートナー選び」

越境ECでの関税や消費税の適用方法について理解し、正しい手続きを取ることは、事業の成功に欠かせません。各国の税率や免税範囲をしっかりと確認し、関税計算ツールや専門家のサポートを活用することで、税務トラブルを回避し、スムーズな運営を実現できます。
税金の負担を最小限に抑え、越境ECを効率的に運営するためには、事前の準備と最新情報のチェックが重要です。
税務知識を高め、信頼できるパートナーと共に、越境ECビジネスを展開していきましょう。